東京の天津飯

ぼくが上京してから、食に関して一番驚いたことは東京の天津飯を食った時だ。まだ嫁と付き合い始めた頃、東京のどこかの繁華街の中華料理屋さんに入って、大好物の天津飯をたのんだ。天津飯がやってきたとき、まず、見た目からして大阪のそれとはちがった。あんの色が濃い、そしてグリンピースが点々と入ってる。なんだか店前にあるレプリカみたいだなと思った。口にするとさらに驚いた。

すっぱ。何これ。

すっぱ。

酢が効きすぎてる。いや、大阪の天津飯はたぶん酢なんか入ってない。めちゃくちゃ落胆した。ぼくの好きな天津飯ではない。この時は以来、ぼくは何度もいろんな中華屋で天津飯をたのんだ。もちろん、大阪で食っていたあのおいしい天津飯が食べたいからである。しかし残念ながら、東京でぼくがおいしいと思える天津飯とは出会えなかった。嫁もぼくがいつも天津飯をたのんで、結果「まずいまずい」ばかり言うから。「もう、たのまんかったらいいやん」とまで言うようになった。そして、ぼくはあきらめた。もう、東京で天津飯をたのむことはよそうと。落胆するだけだと。

先日、横浜でフットサルをした帰り、ラーメンがむしょうに食いたいと思い高田馬場で1人でブラブラしてたら餃子の王将をみつけた。すぐさまぼくは店前の天津飯の写真が目に付いた。それは大阪で食っていた天津飯だった。あんの色が薄くて、グリンピースものっていない。しかし、ラーメンが食いたいと思いも捨てきれず、とりあえずラーメン屋を探そうと思ってその場は通り過ぎた。2軒ほどラーメン屋をみつけたが、2軒ともあまりぼくが好きなタイプのラーメンではなかった。それと、どうにもあの餃子の王将天津飯が気になっていた。ぼくはラーメンはあきらめて、餃子の王将へと引き返した。夜の20時ごろ、店内は混んでいた。カウンターはガテン系の兄ちゃん3人と生ビールを飲んでるおっさんがいて、空いてるのは一番端の入り口に近い席だけだった。ぼくは店員にすすめられるままにその席に座り、天津飯と餃子と生ビールを頼んだ。注文をすると店員が何か聞き返してきた。ぼくは店内がにぎやかなのもあり、聞き取れなかったので、もう1度聞き返した。すると店員が
天津飯の味は塩と甘酢どちらにしますか?」
ぼくはその時初めて天津飯に2種類の味が存在することを知った。そうか、きっと甘酢は東京の天津飯のことなんだなと思い、まよわず塩を頼んだ。それから、ぼくはやっと東京でおいしい天津飯を食べれたという喜びと天津飯の味が2種類存在したことを知った感動とかが混ざり合って興奮しながら、その天津飯を瞬く間にたいらげた。

嫁はまだこの塩味天津飯を食べたことない。今度は、嫁とここへ来ようと思った。
天津飯は塩味でなければいけない。